田代真人さんの講演を聴いたり、ニューヨークのkindleを思ったり

アゴ起業塾「成功する電子書籍ビジネス」を聴講してきた。講師は株式会社アゴラブックス取締役の田代真人さんで、編集者として長く活躍なさっている方だ。

講演の内容は出かける前に想像していたのとは正反対だった。アゴラブックスの役員の話だから、電子書籍をよいしょする契機のいい話がたくさん出てくるのだろう、どんな理屈が語られるだろう、と身構えていったら、最初から最後までほとんどすべてが「電子書籍ビジネスはそんなに簡単じゃないよ」というお話だったから。このブログでほのめかしている見方を田代さんはすっきり、はっきり聴衆に向かって語ったようなものだったのである。講演後の質疑応答を聴いていると、出版産業の仕組みと本の収支について知識を持っていない方には意外な話だったようだが、日常的に数字とにらめっこしている者にとっては納得のいく説明とメッセージだった。

電子出版は普及する。それは供給側にとっては新規参入や新たな競争を生む。パイの拡大がないかぎり、利益率が下がるだけでビジネスとしてのうまみはでない。供給サイドとしてはコスト削減の努力はますます要求されるが、結局それだけではビジネスとしては限界があり、新たな付加価値を見つけ、イノベーションを推進していくことが重要。このあたりが、田代さんのお話を聴いての僕なりの要約である。ほぼ全面的に賛成した。いま起こっていることはそうなのだと思う。以上は要約というのはひどすぎるので、興味のある方は刊行されたばかりの田代さんの御著書をお読み頂ければと思う。この日語られたことは、この中に書かれているようだ。

電子書籍元年 iPad&キンドルで本と出版業界は激変するか?

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アメリ東海岸を旅行中のphoさんが、「kindleって流行ってるってほんと?」という僕の疑問を覚えていてくれて、ニューヨークの様子を教えてくれた。phoさん、サンキュッ!
それによると、ぱっと眼には話題の電子端末利用者を拝む機会はあまりないらしい。

■ニューヨークの通勤者が電子ブックを皆で開いている光景を想像する(2010年2月11日)
■kindleユーザーはどこにいるんだろうか(『technophobia』2010年5月21日)


ただ、kindleで読書をする時間って、ニューヨークの街中ではそもそもあまりないと思う。外国の文物習慣には旅行者に見えやすい部分と見えにくい部分があるが、ふだんはカバンの中に収まっている電子書籍は意外と後者だと思う。phoさんに時間があったら、グランドセントラル駅から北上するメトロノース鉄道の郊外側の駅、スカースデールやライから朝8時の通勤電車に乗ってみて欲しいな。座席にどかっと腰を下ろした通勤のビジネスマンたちがニューヨークタイムズを紙で読んでいるか、おもむろにkindleを取り出すか。ちょっと見てみたい。

それにしても、トラックバックによるこうしたやりとりはブログの楽しみ、醍醐味だなとあらためて思う。梅田望夫さんの言っていた「はてぶのコメントには馬鹿なものが多すぎる」のもまた事実で疲れるけれど。