リスたちの夢

夢の中でしばしば学校にいる。不登校でも、いじめられた経験もないのに、小学校の時分の学校は気持ちの中であまり楽しい場所ではなかった。その気分がいまだに夢となって現れる。昨晩の“学校”は、きれいな総合病院といった風情で、そこが夢の夢足るところなのだが、それでも「ここは学校だ」と意識されている。指の怪我のために12月から1月にかけて通った総合病院にとてもよく似たつくりの建物で、思い出すと普通の市民や白衣の医者もいたように思う。

ともかく、そんな場所で、してはならない不都合をやらかし、囚人のようにある場所に収容されてしまう。たくさんの人たちがいて、比較的年配の人が多い。皆疲れた顔をしている。外国人も混じっている。縦縞のパジャマのような衣類に着替えさせられる。「まずい、閉じ込められてしまう」と慌てるが、全員がぞろぞろと異なる場所に移動させられる機に乗じて、実に簡単にそこから逃げおおせる。

見つかったらたいへんだと気が気ではなく、人と目を合わせないようにしながら、足早に階段を上り下りし、部屋の陰に隠れながら移動をするのだが、夢の中には追っ手が現れず、館内放送や緊急サイレンが鳴ることもない。夢の中の人々は浮遊するクラゲのように頼りない。

いつの間にか運動場にいて、学校の友達とおぼしき若者と並んで歩いている。とすれば、夢の中の自分は高校生ぐらいの子供であったらしい。自分はいまこの場所から逃げようとしているということをほのめかしながら人気のないグランドを出口の方向に進んでいくと、いつの間にか門もない敷地を抜けて右折し、都会に特有の、コンクリートに固められ、濁った川の縁を、校舎を右手に仰ぎながら歩いている。川の向こう側を電車がスピードを出して行き来している。その友人は、まかせておけというような態度を示し、やってきたバスに僕を導く、後ろ半分が大きくあいて、バスというよりも、トラックの荷台のような空間があり、そこに入ると数人の人々が静かに立っている。入り口のそばにいた中高年の婦人が、顔を近づけてきて、くんくんと鼻を動かす仕草をする。彼女はひと言もしゃべらない。友人が耳元で言う。「みんな本当はリスなんだ」 そうかと思う。それで、こんなに静かで、皆が独立していて、かつ友好的なんだ。

リスのバスは、僕らを最寄りの駅に連れて行ってくれる。これで助かったと思う。ビルが周辺に建ち並ぶ駅を見て、「どうしてこんなに急速に都会化したのだろう」と驚き、そんな印象を友人に喋るのだが、いったいその駅がどこなのか、感嘆している本人はまったく理解していないのである。