大統領就任式

オバマ大統領の就任式と打とうとしたら、パソコンは「小浜大統領」と返してきたので笑っちゃいましたが、それはさておき。その大統領就任式についてはマスメディアのみならず、日本のブログでもあちこちで話題になっています。アメリカのニュース番組では世界中が小浜大統領誕生に注目している様がレポートされていました。こうしたアメリカのビッグイベントがあると、そのことがやけに拡大されて見えるのですが、日々のニュースを見ていても、アメリカは基本的にアメリカのことにしか興味がない。でも、日本人は常にアメリカの動きを報道しているし、たとえばドイツのニュースなどを見ていてもそうです。アメリカのことは世界中が気にしている。まさに腐っても鯛。凋落が語られようと、そう簡単にアメリカの培ってきた力、多様性をはぐくむ文化の魅力がなくなるわけではありません。アメリカはこれからも世界の中心としてあらゆる注目を集め続けるでしょう。そして、「日本になんかいてもしかたがない、世界に出よう」と考える若者は増えることすらあれ、減っていくことはないでしょう。そのとき、「世界に出よう」と考えるとき、若者たちのまなざしの先で光り輝く世界の中心として存在するのは、やはりアメリカではないでしょうか。少なくとも今後10年、20年といった将来に思いをはせた場合、その“世界”が中国やインドであったということはないし、欧州になっていたということもありえないのではないでしょうか。単なる経済の好不調とは関係のなく、アメリカは本質的に国の成り立ちが他の国々とは異なっています。そこはつねに多くの人々にとっての“新世界”なのです。人を吸収することが本質的に国のありようと結びついている不思議な場所です。

僕が生まれて初めてアメリカの地を踏んだのは、いまからきっかり16年前でした。仕事でロサンゼルス空港を経由し、ラスベガスで行われた通信関係のカンファレンスに出かけたのです。僕のアメリカに対する第一印象は必ずしもよいと言えるものではありません。なんとばかでかく、すかすかで、頼りない土地だろうと思いました。なんといっても最初に出会った街が人工的で商業主義の極にあるラスベガスだったのです。こんな変わった街は他のどこにもないといってよい場所ですから、運がよかったのか悪かったのか。大きなステーキにびっくりしました。隣のホテルまで歩くのに汗をかくほどの距離があるのに呆れました。自分がいるホテルの前で殺人事件があった様子が昼のニュースで報道されてるのを見て、肝胆から恐怖心がわき出てきました。こんなところは二度と来たくないと思いました。

このときには一緒に出かけた相手がそのカンファレンスでプレゼンテーションを行いました。それにつきあったというのが、僕の“仕事”の実態です。当時は「読めるけれど、ほとんど書けない、聞けない、しゃべれない」というのが僕の英語力でしたから、はっきり言って役立たずでした。それでも、そんな中で必死で情報収集をしたように覚えています。

カンファレンスの二日目、併設されている展示会場の隅にある大きな休憩スペースにテレビが置かれていました。ちょうど、大統領就任式の模様が中継されているところでした。新しい大統領に就任したビル・クリントンがヒラリー夫人とともにペンシルベニア・アベニューを手を振って歩いている様子がモニターに映し出されていました。熱気はテレビからも伝わってくるようでした。就任式のことを「inauguration」と呼ぶのだとこのとき知りました。アメリカで最初に覚えた英語でした。
その後、雪のカンザスを経てワシントンDCに行きました。生まれて初めて目にするホワイトハウスの前には、まだパレードのための仮設観客席が片付けられずに残っていました。立ち入り禁止を示す黄色いテープが妙に鮮明に記憶に残っています。

アメリカという国に何の興味もなく、ほとんど連れて行かれたに等しい出張でした。苦労して帰ってきて、これでつきあいはおしまいとなるはずでしたが、2年後に駐在することになったのは、この出張とは無縁ではありませんでした。このときに始めた仕事が駐在の土台になったのです。この初めての旅で、アメリカの魅力といいますか、そこまでは分からなかったかもしれませんが、やはりちょっと違うぞ、何かあるぞ、という感覚を覚えたのは間違いないのだろうと思います。それがなければ、駐在の話があったときに手を挙げることもなかったはずです。

人々を引きつけるアメリカの大統領就任式にまつわる個人的な思い出です。アメリカには磁力がある。日本にはそれがない。少なくとも、とても小さい。常にそのことを感じています。僕自身は、将来、子供が仕事や結婚であちらに住むということでも起こらない限りは、もうアメリカに行くことはないかもしれないと考えていますが、あの国の磁場はいまもインターネットを通じて僕の生活に影響を及ぼし続けています。