すくっと立つ人

12月13日に開催したブロガーの集まり、「シュンポシオン横浜」から一カ月が経った。
父親が急にこの世から退出したおかげで、あれこれと些事が発生し、それが玉突きのように日常の営みに影響を及ぼしている。ブログ書きもまだ元の通りに動かすことができていない。でもやっと、ほんとうにやっと、会を振り返る余裕が出てきた。本来ならば12月の半ばに書いていないとおかしいような内容を今頃掲載するのは間が抜けていると言うより他にないのだけれど、個人的にはやはり書いておかないと気がすまない。参加して頂いた方も、そうでない方も、どうかお付き合い下さい。

僕の記憶はすでにとぎれとぎれで、しかも思い出は順不同にやってくる。だから、このブログの記述もそんな風になる。順不同の思い出の中で、なぜかとても強く印象に残っているのが、さっと椅子から立ち上がる倉田さん(id:atkura)の姿だ。

今回の会では「20代の人に話をしてもらおう」と企画をしたが、参加した20代の皆さん全員がその呼びかけに呼応して下さり、10人を超える方々が5分という短い持ち時間を使ってご自身のことを話してくれた。それはそれは素晴らしい体験だった。すでにたくさんの人たちがブログに書き綴っているので、ここで繰り返しそのことに言及するのは今さらの感想だが、ほんとうによかった。ちょっといままで経験がない時間だった。僕の感じ方については、また気が向いたらあらためて書きたい。

さて、ところで。

当日、きちんと時間を守ってくれた講演者の皆さんと司会者・辻さんの有能な仕切りのおかげで少し時間に余裕ができた。司会者がとっさの機転で「では、三十代で誰かひと言話したい人いませんか」と会場に向かって声をかけた。同時に、辻さんの視線は、何故だかしらないが、後ろの方に座っていた倉田さんに向かい、「倉田さん、どう?」とご指名があったのである。僕はいちばん後ろに立ってその様子を見ていた。

倉田さんは、ほんの一瞬だけ間を置いて、すくっと立った。そして、演台に向かって颯爽と歩いていった。高校の先生という、数十人の子供たちの前で毎日話をする職業の人ならではの、堂に入った対応は見事のひと言に尽きたが、僕はその一連の倉田さんの動作、指名に対して何らのたじろぎのそぶりをも見せず、まるであらかじめそうすることが予定されていたかのようにご自身の学校での取り組みを言葉にする様子に感銘を受けた。

その感銘の理由を合理的に説明するのはよしておきたい。ともかく、その様子を見て、僕は「なんて格好いいんだろう」と思い、人から何かを依頼されたとき、逡巡も、言い訳もあらばこそ、それを受けて「すくっと立つ人」になるという、善き生き方の一つのモデルを倉田さんが示してくれたと感じたのだった。