冷戦下のベルリンを舞台にした二つの映画のタイトルについて

今月初旬に会った30年来の友人Nに『ベルリン 天使の詩』はとてもよい映画だと勧めたら、原題は何というのかと尋ねられて、「?」となってしまった。英語圏に住まっている彼には、原題ないし英語名がなければ連想がうまく働かないし、ものにたどりつくこともできない。

今日、三上さんのブログでそれが『Der Himmel über Berlin』であることを知った。原題は『ベルリンの空』じゃないの。Nがアメリカで最近見た映画の中でドイツ映画『善き人のためのソナタ』が面白かったという話が誘い水になった会話だったのだが、調べてみると、こちらの原題は『Das Leben der Anderen』、文字通りの訳は『他人の人生』である。

両方の原題と日本向けタイトルを眺めると、「見出しやタイトルがどうあるべきか」という最近の個人的な関心に心が向かう。二つのドイツ語のタイトルは20世紀の有名小説群と明らかに地続きである印象がある。僕は「それなりに洒落ている」と思うのだが、紋切り型すぎてつまらないとも言える。何れにせよ、これでは東京のメディアの中では漢字とひらがなの洪水の中に埋もれてしまって、大衆の購買意欲を刺激するのはとても無理だということは分かる。そこで、『ベルリン 天使の詩』や『善き人のためのソナタ』の登場と相成るのである。これらのへんてこな題名を見たが最後、「“天使の詩”ってなに?」「“善き人”ってなに?」と脳は自然とさまざまな想像を紡ぎ出してくる仕掛けになっている。大衆のと耳目を集める技が発揮されているというべきだろう。

ある種の技術について、ごく初歩的なテクニックの一端に触れているだけだということは重々承知の上なのだが、こういうことに驚かないと気が済まない人間には何が欠けているのだろうか。あるいは、その裏返しとしてどんな資質が備わっているのだろうかなどと考える。考えてみたって分かるわけではないが。

それにしても『ベルリン 天使の詩』は、とても素敵な映画だ。生きる勇気が湧いてくる。『善き人のためのソナタ』は勤め先近くの二流館でやっているのを見逃した。


■20年前の映画、10年前の映画(『三上のブログ』2008年8月25日)


ベルリン・天使の詩 デジタルニューマスター版 [DVD]

ベルリン・天使の詩 デジタルニューマスター版 [DVD]

善き人のためのソナタ スタンダード・エディション [DVD]

善き人のためのソナタ スタンダード・エディション [DVD]