ハチドリ

社内異動で仕事に追いまくられ、悔しいところだがまともにブログを書く心の余裕がない。hayakarさん(id:hayakar)さんだったら、「毎日そんなに書くこともない」と書いて、味のある絵を添えるところだろうが、一度そのタイトルを真似て、けっきょくだらだらと文章を書いて失敗したことがあるのを思い出すばかり。

それでもお気に入りのブログを拝見し、気分転換というのか、違った空気を吸う少しの時間を確保する習慣は維持している。蝶々や、わんちゃんや、猫さんや、めだかさんや、あちこちで動物の話題を目にする。偶然だろうが、人間様のどろどろぐちゃぐちゃした世界の外側に広がる世界の話には心が和む。

昨日にはmmpoloさんがハチドリの話題をお書きになっていて、それを読んで急に10年少々前のアメリカ時代の思い出が蘇った。ニューヨーク州の北、マンハッタンから車でひたすら4時間余の北上を続けたところにアディロンダックという広大な公園がある。公園といっても、森と湖、キャンプ施設とカヌーがあるだけの実に素朴な、かつて入植者が見たアメリカの風景そのものといった場所だ。低山と湖沼がゆったりと広がる一帯には気の利いたランドマークは何もない。もうすぐにカナダ国境のその場所で夏のたび毎に2泊の短いキャンプをして遊んだ。湖畔のキャンプ場でカヌーを借りて漕ぐこと以外には何もせず、人気も少ない水と植物と動物の世界でゆったりと寝っ転がる休日は、いま考えても至上の休息と呼びたくなる。

http://visitadirondacks.com/

そのキャンプ場で過ごしていたある時間、当時小学生だった息子が「ハチドリを見た!」と言って、目をまん丸くして報告に来たことがあった。僕にはハチドリは中南米の産という生半可な知識が頭の中にあり、「それは見間違え、ハチドリってこんな寒いところにはいないよ」と相手にしなかったのである。

ところが。それからだいぶ経ってからWikipediaである日ハチドリの記事を読んでいたら、そのお仲間は間違いなく北米に住んでいるというじゃないか。生半可な知識が邪魔をして子供の言をまともにとりあうこともせずに、自分自身ハチドリに遭遇する絶好のチャンスを逃してしまったのだと気がついたのは、ことが起こってから数年後だったのではないだろうか。僕の記憶は、この辺りになると朦朧としており、自分自身もそのハチドリのような生き物を目にしたような、もしかしたら偽のものかもしれない記憶がどこかに残っている。僕の偽の記憶の中でホバリングするハチドリは、とても小さかった。

フロアの中で坐る場所が変わり、北西方面を臨む窓際族になった。目を左に泳がせると、7階のフロアから山手線が行き交うのが見える。ガラス越しに濾過され、空調音に邪魔されながらもギューン、ガタンゴトンと音も聞こえてくる。電車好きだったらこの席は楽しいかも知れない。