ニュアンスたっぷりで、けれども短いひと言が

「『偶然だぞ』でちょっと遊んだ」というエントリーを書いたときに、「It's gonna happen」をなんと訳すのがいいのだろうと書いた。もう少し調べておけばよかったのだが、ちゃんとその由来がいくつかの記事で紹介されている。昨年秋にカブスが調子を上げてきたときにスポーツ・イラストレイテッド誌が見出しで使い、それ以来シカゴで連呼され続けているフレーズなのだそうだ。

■福留、鮮烈デビューの「偶然だぞ」(『NumberWeb』の李啓充さん記事)


とすれば、訳語は昨日カブスのオフィシャルサイトに掲載された記事で読んだこれでほとんど決まりか。

The key phrase: kotoshi koso. It's the closest Japanese translation for "It's going to happen."
(『Fukudome at center of offensive surge』MLB.com)

「あれ、どこかで読んだな、これ」という気がしたので、すぐ自分のブログを読み返したら、中村孝一郎さん(id:koichiro516)から頂いたコメントがドンぴしゃこれだった。やるう。

「今年こそ!」「今シーズンこそ!」はどうでしょうね。
カブスは前回のワールドシリーズ制覇から99年間優勝を逃し続けていることを考えると、この訳は阪神ファンに聞くといいかもしれません。

このエントリーでの問いかけに答えてくれたのは中村さんと、もうお一方。『雪泥狼爪』のyukioinoさんは翻訳のお仕事をなさってきた方で、普通に英語の読み物が登場するエントリーを読んで、相当の英語力の持ち主ではないかと勝手に想像しているのだけれど、そのyukioinoさんはこんな風に書いてトラックバックをしてくれた。ちなみにWebでいくつかの記事を読んだかぎりでは、中村さんのように優勝と直接かけた訳をしている方と、下記のyukioinoさんの訳のように、もう少しさまざまなニュアンスを盛り込んで優勝に限定を避ける訳とがほぼ半々という感じで混在していた。

翻訳を仕事にしたときの経験から考えると、ちょっとした言葉、ニュアンスたっぷりで、けれども短い一言がいちばん手ごわい挑戦かもしれない。

It's gonna happen. テレビで観たとたんに条件反射的に訳をいろいろ思い浮かべた。盛り上がるballparkの観客席で、高まる熱と期待の代弁として、自分としてはすこし勢いをつけて「くるぞくるぞ!」としておきたい。いささか砕けすぎかもしれないが(笑)
「『偶然だぞ』から考える。」(『 雪泥狼爪』2008年4月12日)

「ニュアンスたっぷりで、けれども短いひと言がいちばん手ごわい挑戦かもしれない」という言葉を読んで、さまざまに連想は飛んだ。自分がやった誤訳を思い起こしながら改めて翻訳は恐ろしいという感慨を何周かめぐり、言葉を濫用しがちな自分のブログのことを思い、また「寸鉄人を刺す」ということわざにいきついては、言葉というものはそういう覚悟で使う必要があるのではないかと自省の念をかすめとおったり。言葉をちゃんと使わないと、どこでしっぺ返しがくるか分かったものではない。言葉はおそろしい。