記念撮影

写真屋さん、いちまい撮ってんかー」
「はいはい、よろこんで。いきますよお」
「ちゃんと丸いの入れてや」
「丸いの?」
「丸くてぴかぴか光る、きれいなやつやねん」
「あっ、観覧車ね。おやすいご用です。では、いきますよお」
「茶色い建物も入ったか?」
「はいはい、赤レンガ倉庫ね。それはすぐそこですから、もちろんちゃんと入ってます」
「尖った建物もやで」
「あの目立つナイフの形みたいなホテルね。そりゃ間違いなく」
「あといちばん大きいやつも忘れんといて」
「はいはい、……えっ、ランドマークタワー? あの、でかいビル?」
「あんた目え節穴か。いちばん大きい言うたらいちばん大きいやつや。ふつうに前見てたら、言われんでもどれが背高いかぐらい分かるやろ」
「そりゃあ無理だ。ランドマークタワー、少し左ですもん。あれを入れるとお客さん相当小さくなっちゃう」
「へぼやなあ、おっさん」
「はっ?」
「客の言うこと聞けへんで、無理、無理言うてたら商売ならへんで。あの高いビル写らんで横浜の記念写真になるか? 構図なんていうもんはな、その気になればいくらでも工夫ができるもんや」
「そんなむちゃくちゃなこといいますけどね、私たんなるアマチュアですから、そりゃあプロみたいにはいきませんよ」
「あんた、出直してきた方がいいんちゃうか。いいか、たとえば土門拳はな、ああ見えて、世に出る前は即座に構えてシャッターを切る練習を毎日千回続けるぐらいのことはしよってんねん」
「お客さん、カラスのくせにつまらないことまで知ってますね」
「あたりまえや。カラスいうもんはな、こうみえてそれなりに勉強しとるんや。あんたはまだ若いな」
「そうでしょうか」
「うん、どうみても苦労(crow)が足らん」

お後がよろしいようで(テケテンテン、テケテンテン……)。


■横浜逍遙亭・写真帳(2007年9月11日)