白のマジック

山本弘画伯の作品を六本木のギャラリーMoMoで拝見する。小品を中心に11点の小さな個展。


やはり、写真では本物の魅力はなかなか伝わらないものだとあらためて感じた。この日展示されていた作品の白眉は、こちらで紹介されていた30号の『種蓄場』だった。

■山本弘の作品解説「種畜場」(『mmpoloの日記』3月9日)


写真では伝わらないと書いてしまった上でなんと申し上げてよいか分からないところがあるが、白い霧はカンバスの上で、とてもおとなしい朝霧とは思えない闊達な運動をしていて、そのマチエールの自在さは白飛びしてしまう写真が苦手とするところだなあと一人で合点しつつ、クリーム色がかった白の思いがけない乾いた明るさに心が一緒に踊るようだった。


これらの数限られた作品を見た限りの感想だが、この作品を含めて限られたいくつかの作品で使われていた山本弘の多彩な白は雄弁である。白はたぶん山本さん自身から遠い色で、しかるが故にそこにはある種の崇高さというか、憧れというか、求めて得られる何かポジティブな価値が垣間見えるように感じられる、そんな色だ。通りすがりの者の戯言かもしれないが、そう言いたくなるほどに、根源的に山本作品の基底には日本文学的な暗さがある。どこか、明らかに東京の六本木=2007年3月とは相容れない空間と時間が狭いギャラリーMoMoのなかに出現しているとでも言わないととてもとつりあわないような画家の感情の表出が生々しく感じられ、内心たじたじとなった部分なしとしないではない。


しかし、こう書きながら、白こそは山本さんがもっと使うべき色だったのではないかと、本来幼い頃の山本さんは白の人だったのではないかとそんな気もしてくる。どちらか本当かは分からないし、詮索しても仕方がないが、それぞれに自分自身さえも制御できない苦しさを、程度の差こそあれ抱えて生きる人の世・我らが人生の一筋縄ではいかない成り行きに思いをはせる。画を見た感想としては泥臭すぎるような気はするが、山本弘展はそんな感想が思い浮かぶような場所だった。


■六本木ギャラリーMoMoでの山本弘展(『mmpoloの日記』3月21日)