吉本隆明『生涯現役』

きれいに晴れ上がった朝。しかし昨晩からの強風が周辺の木立を揺さぶり、絶え間なくざわめき続ける。北国の天候はたいへんらしい。我が家から見える富士山山頂も吹雪き雪煙を上げている。


吉本隆明さんの『生涯現役』の中に実に吉本さんらしい記述がある。
景気が回復しているなんて言っているが、周囲の商店街を見ると火が消えたようになったまま。景気回復なんてとんでもないぜ、と。体力的には衰えが著しい吉本さんだが、長年の読者にとっては嬉しいことに吉本節は健在だ。


吉本さんの問題意識は、いつものように大衆に寄り添い、同時に時代の真ん中にある。投資できる体力のある企業は情報技術などの恩恵を受けてスピード経営に対応できるようになり、そうではない中小は、よほどの才覚が経営者にない限り、いやほとんどの場合、才覚の範囲を超える大きな力の前に非常に厳しい状況に立たされている。「仕事は増えているものの、原材料の高騰でコストが売り上げに輪をかけて上がっている。利益はかすかすだ」と年末に会った友人の町工場経営者は言う。僕の近しい身内も会社の業績悪化のしわ寄せでリストラされ苦しんで仕事が見つからずにいるし、同じような話はいくつも聞く。まったくもって人ごとではない。


数年前に今の勤め先に転職してきた際、同じ転職組数人とそんな景気の話になった。IT企業から来たエンジニアはむしろ引く手あまたで、自分の友人たちの動向を見ても不況を感じることはない、世の中で不況と騒いでいるのが信じられないと言う。僕と、あるエンジニアリング会社から来た一人はまったく異なる感想を抱いていた。


日本経済における二極化、階層社会化は恐ろしい勢いで進んでいる。「Winners Take All」の世の中でどういう生き方を選んでいけば良いのか。それが多くの方々同様自分にとっての大きな問題だ。一昨日に堺屋太一さんのインタビュー記事に即して書いたとおり、政府はまるで当てにならない。消費者としてIT技術とどう付き合っていくかも、その中の課題の一つ。ある時に今までになかった新しい技術が、好むと好まざるとに関わらず、直接・間接にかかわらず、自分に多大の影響を与える時代を如何に生きていくか。


生涯現役 (新書y)

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