essaさんのトラックバックに触発されて

9月25日のエントリーでbookscannerさんと三上さんのディスカッションを紹介し、「アトムのビット化を進めるのはグーグルの企業目標に適っているし、競争戦略上そうやっているんじゃないかと思う」と書いたら、essaさんがその感想を引き取って魔法のように展開してくれた。essaさんの知識と直感力、論理展開はただ見事というほかはない。その露払いを務めることができてよかったという思いがする。


■scanning every ATOM on the earth(『アンカテ』2006年9月25日)


essaさんによれば、企業の目標に適っているどころか、「グーグルという会社は、"scanning every ATOM on the earth" への貢献度を、唯一の評価基準、唯一の原理として運営されているのではないかと思う」ということになる。このテーマについて知見を深め、考え続けている方でなければ、とてもこうは言い切れない。その後に展開される「scanning every ATOM on the earth」と「ドクターファーム」という二つの原理を立て繰り広げられるグーグルのビジネスモデルに対する切れ味抜群の考察には目の覚める思いがした。


ところで、essaさんのテキストの中で僕の感想に対する直接の批判的コメントになっているのは、次の部分だ。

だから、 "scanning every ATOM on the earth" は、結果として、利益の極大化を目的にした普通の企業のやることによく似ている。でも、それはたまたま二つの原理が行動として同じ結果を産むというだけのことだ。外部から観察できる行動にはそれほど違いは見えなくても、組織を駆動する原理は全然違うものかもしれない。
(scanning every ATOM on the earth)


これは、essaさんのエントリーの直前にトラックバックをくれたbookscannerさんの記述とも呼応している。お二人の表現は違うが僕の書き方に対して同じことを感じているのではないかと思った。

中山さんの「参入障壁論」は、確かに説得力がある。でも、GooglePh.D集団だよ。MBA集団だったら、ほぼ間違いなくそういうことやるだろうけど、世界一の変人企業であるこのPh.D集団が、障壁なんて考えるのかな?
(美崎薫さんは「2009年に来る3年後の未来は日々体験ずみ」なんだって『bookscanner記』)


グーグルは普通の企業ではないのだから、普通の企業を見る目線で発想するなということだ。エンジニアであるお二人は僕とは違って、この点については肌でびんびん感じる部分をお持ちなのだと思う。グーグルは他の企業とまったく異なる土俵でサービスを提供しているし、今後もし続けるだろうから、出来上がったパイを争う場合に重要となる競争戦略は考えなくてもよいのではないかというbookscannerさんの指摘は、グーグルの非常識度の表現として秀逸だ。


ただ、一言加えておくと、essaさんの「ドクターファーム」論や梅田さんの「情報発電所」という表現が示すところにグーグルが保持する(排他的技術と結びついた、ph.Dをつなぎとめるための)規模の効果はあからさまに内在されている。だから、グーグルが現時点で突出した一社であり、実態的に競争ルールの外にいるのは紛うことなき事実だとしても、競争のルールをまったく別のものにしたとは思えない。essaさんの過去のグーグル論を拝見するかぎり、個別のサービス提供という局地戦でグーグルが競争にさらされることがあっても、「ドクターファーム」の魅力、「情報発電所」の発電能力が全体としてのグーグルの競争優位を持ち続けるのは間違いないことのように思われる。とすれば、その「ドクターファーム」と呼ばれる、人とモノとが合体した、もやもやとして法律的・経済学的に定義しづらいすごい仕組みに規模の経済性も範囲の経済性も顕著なのだ。グーグルはその意味では、誰も真似できない高度さではあっても正攻法の競争戦略を歩んでいると思し、いろいろな方面から「グーグルによる独占の弊害」が問題提起される危険性を孕んでいると思う。


ここまで書いて、(もったいないから消さないけど)また間違えた気がする。問題は"組織の駆動原理"なのだった。bookscannerさんを苛立たせたか、あるいは困惑させたのは、僕の論に技術やサービスの開発の現場に対する無知から来る真実みのなさ、ぬくもりの欠如を自然に読み取るからだと思う。技術の現場から遠い素人がグーグルについて発言するのはなかなかの冒険なのです。


今回のやりとりのなかで三上さん、bookscannerさん、essaさんにはいろいろなことを教えていただき、かくて僕が抱く"グーグルすごい=恐い"の感はまた深まった。


【おまけ】
9月25日分のタイトルですが、丸一日以上「untouchable」を「untachable」と誤記しているのを気がつかずに人目にさらしたままにしてしまいました。以前、文藝を「文藝春秋の」と書いてしまい、コメントで「河出書房新社の間違いだぞ」と指摘されたときも「うわっ」と思いましたが、今回はそれ以上に「うわっー」でした。さすがに今回は訂正いたします。黙っているなんて、皆さんお人が悪い。