ひっそり

通勤電車に苦もなく座れる。職場で目を上げるとまばらな人の姿。なんだか、夢の続きのようで、足下がおぼつかない感じ。まるで武満徹の世界のよう。


クラシックに詳しい年長の知人がかつて「欧州では武満徹は評価されていない」と言っていた。そんなものかなと聞き流すように聞いたが、どうもその一言は流れていかなかったようで、もう二十年も前の話なのに、こうやっていまだに思い出す。


たしかにそうかなと思うのは、個人的にはその後にメシアンなどを聴く機会が出来、それらになじむと武満に小さな違和感を覚えるようになったから。ドビュッシーメシアンブーレーズなどの音楽が身近にある世界に「舶来でござい」と武満さんを持ってきても率直に反応できない部分があるだろう。たぶん、フランス人、それにフランスに近い英独伊などの音楽ファンは武満に何か自然ではないものを嗅ぎ取るのではないかと思う。


また、僕がクラシックのCDを購入する際に十年来レファレンスとして活用しているのが、英国のペンギンが出している「The Penguin Guide To Compact Discs & DVDs」だが、作曲家別アルファベット順に数多くの作曲家・作品が紹介されているこのガイドブックで取り上げられている武満作品は「えっ、これだけ」と思わずこぼしてしまいそうになるほど少ない。それも、この盤を紹介するのなら他にありそうなものを、とぼやきたくなるようなCDが紹介されており、真面目にあれこれと聴いてはいないことが明らか。


これに対して、米国ではだいぶ様子が違い、彼が亡くなった際のニューヨークタイムズをはじめとする米国メディアの大きな反応に驚いたものだ。ちょうど、そのころ、僕はニューヨークにいたが、90年代後半にあれよりも大きな記事になった日本人は伊良部ぐらいだったのではないかと思う。


僕が好きなのは一昨日も挙げたピアノ作品。舘野泉とともにピーター・ゼルキンが演奏したCDをニューヨークで聴き惚れていた。オーケストラは後期の叙情的な作品を採る。甘ったるくて嫌いという人もいるだろうが、今井信子ヴィオラ独奏を聴かせる「A String around Autumn」(小澤征爾指揮ボストン交響楽団)はどうだろう。


武満徹 : ノヴェンバー・ステップス / ア・ストリング・アラウンド・オータム / 弦楽のためのレクエイム 他

武満徹 : ノヴェンバー・ステップス / ア・ストリング・アラウンド・オータム / 弦楽のためのレクエイム 他


彼の作品は、現代音楽にしては珍しいと言ってよいほど同じ曲がいろいろな演奏家で録音されており、演奏によってかなり肌合いが違うので、聴き比べる楽しみは大きい。