サイモン・シンの新作を買った

今日も次男の100m走を三ツ沢競技場で見物。長男がバスケットをやっていた時には応援が楽しかった。1時間半ほどの試合の間、応援する者もとっぷりとゲームに没頭できる。それに比べて100m走は十数秒で目の前を駆け抜けるのを見るだけなので応援にはとてもならない。見物と称するゆえんである。最初はその味気なさにがっかりしたが、見る作法を覚えると、これはこれで独特の楽しみ方があると最近分かったが、その話はまた別の機会に。今日の直人は12秒29。前回の記録には100分の6秒及ばず。帰りがけに横浜駅有隣堂橋本大也さんのサイトで知ったサイモン・シンの最新刊『ビッグバン宇宙論』を買って帰る。

サイモン・シンの前作二つは橋本さんがサイトで一押し、二押ししていることでも分かるとおり、掛け値なしに素晴らしい。僕も『フェルマーの最終定理』は発刊後かなり経ってから図書館で借りて読み、あまりに面白かったので誰彼に勧めたくなって、「面白い」を連呼した末にわざわざ再度借りてきて長男に読ませたほど。おせっかいなオヤジである(でも、弁明しておくと、ご本人様が「何か面白い本ない?」と訊いてきたので勧めたまでです)。もちろん、『暗号解読』も追いかけるようにして読まずにはいられなかった。

あまたの書物をすごい勢いで紹介している橋本さんですら、この作者を絶賛せずにおれないのはよく分かる。橋本さんだけではなく、この本には一家言ある人達がひとこと言いたくなるらしく、ひょんなところで活字になっているののに出くわす。

僕が覚えている中で一番顕著なのは、本屋大賞を受賞した小川洋子『博士の愛した数式』の中で、いかにもシンさんの本を読みましたと言わんばかりにフェルマーの最終定理が挿話として使われている例。これは数学者が主人公のお話しだから分かるけど、保坂和志の文学評論『小説の自由』を読んでいたら、くそまじめな文学論、文章論のまっただ中に『フェルマーの最終定理』の一節を取り出して論評し始めたのには参った。

難しいことをちゃんと理解して、一般大衆が分かる言葉で、一般大衆に当事者たる数学者らのわくわく感を理解させ、彼らの世界に引っ張り上げるその文章力は並ではない。こんな凄いノンフィクション・ライター見たことない。

というわけで、内容は何であれサイモン・シンが書くものは最大級の信頼を置いて、ともかく読む。今読んでいる『冷血』の新訳版が終わったら、次の楽しみはこれ。