北大キャンパス、小さいおうち、カモおばさんと鳩おじさん、毛ガニ

三上さんとすすき野で晩ご飯を食べながら楽しく歓談したのちにホテルに戻り、けっきょく寝入ったのは12時過ぎだったが、5時には目が覚めてしまった。11時に三上さんと落ち合うまでは市内散策の時間。三上さんのアドバイスもあって、ホテルにほど近い北大キャンパスに散歩に出かけた。

まだ空けきらない時間帯。札幌の空気は冷たく乾いて気持ちがよい。



キャンパスを入ったところで日が昇るのに立ち会う。



北大のキャンパスは、市民の皆さんが三々五々に散歩をしたり、ジョギングをしたりしている。こんな風に外部に開かれた大学の存在は日本では他にあまり聞いたことがない。すばらしい光景だ。



ちょっと待て、いま何時だと一瞬立ち止まって考えた。5時半に響く球音。野球のグランドでは早朝野球が始まっていた。学生さんなのか、それともキャンパスを開放していて出勤前の社会人がプレイしているのか。



パカッ、パカッという蹄の音が近づいてきた。馬術部の学生さんとお馬さん数頭が朝の散歩だ。猛烈に感心したのだが、皆さん、例外なく「おはようございます!」とはっきりした声で挨拶をしながら通り過ぎる。最初の一頭が通り過ぎるときには、思わずオレの後ろに誰かいるのかな振り返ってしまったのだが、彼らはカメラを手にした観光客に対してちゃんと挨拶をしていたのだ。感激である。一挙に北大ファンになる。
それにしても、5時半に馬に付き合うなんてよほど好きじゃないとできないとそのことにも感心した。隣で歩いていたおじいさんが「火曜日のこの時間にいつも通るんだよ」と教えてくれた。




池ではおばさんにカモが集まっていた。



キャンパスで見た大きなナナカマドの木。前日、運転中の三上さんに「あの実がなっている街路樹は何ですか?」と尋ねたらナナカマドだという。驚いた。本州でナナカマドと言えば、信州の高山で見る灌木だ。ナナカマド→秋の北アルプスという連想ゲームが働く。それが北海道ではもっとも一般的な街路樹であり、もっとも大きな顔をした存在だという。



けっきょく2時間以上北大の中をうろうろしてしまった。宿に帰って朝食を取り、一休みしたのちに11時の真駒内駅集合目指して宿を後にする。自然環境に比べると、都会は日本中どこもそれほど変わらないと思ったが、歩くとそれなりに個性が目に付く。札幌駅を目指して歩くと、四つ角ごとに印象的な建物が建っていた。
最初にあったのはバージニア・リー・バートンの「小さいおうち」と親戚のような一軒家。なかなか。



次の四つ角に現れたのは炭屋さん。これも個性的な建物。



その次の四つ角には蔦のおうち。



ほどなく札幌駅前へ到着。このガラス張りの地下街入り口もお洒落だ。



札幌駅北口で西側を見ると山がすぐそばに見える。札幌は大都会だが、自然が近い。



駅のコンコースを通り過ぎるときに小さな本屋さんで立ち読みをする人たちを撮った。日本全国、この光景は変わらない。



札幌駅の正面玄関。でかい顔しているわりには、清潔感がありスタイリッシュ。感心する。



その横にそびえるJRタワーは新しい札幌のランドマーク。ということも本当は最近知った。



アーノルド・パーマーの看板を見つけた。だからどうした?と言われると困る。



札幌のバス停はサイケデリックで自己主張が強い。



どこに向かっていたかというと、お目当てはここ。やはり、札幌に来て時計台を見ないで帰るわけにはいかないでしょう。正しい観光客と化す。



ここに来ると観光客がわんさか。みんな楽しそうに記念撮影をしている。日本語、中国語、韓国語と入り乱れる。



話には聞いていたが、本物の時計台は呆れるほど小さかった。しかし、開拓時代の明治の北海道にあって、あるいはそれ以降の北海道の歴史の中で、この建物の大きさは隣のビルとは比べものにならない。



大通公園に出た。札幌はとてもセンスの良い街で感心することしきりだが、このテレビ塔は例外的に圧倒的にダサい。



大通公園の開放感は素敵だ。早朝にカモおばさんに会い、ここでは鳩おじさんに出会った。



大通公園の近くで見つけた放置自転車の列。この光景は札幌も変わらないんだと我ながら変な感心をした。これだけ自転車が使われている国なのに、自転車を置くことを真面目に考えている街は日本にはないらしい。



さらに下ると月島のお好み焼き屋さんの、大きな看板に出会う。月島は、ときどき写真を撮りに出る場所、おーっ、こんなところで頑張っとるね、と再会を喜ぶ。



もうすぐすすき野。札幌に路面電車があるのを知らなかった。



狸小路の巨大アーケード街。小学校3年生のときに札幌から引っ越してきた同級生の堀江くんがよく自慢していた。「札幌には狸小路っていうところがあってすごいんだぜ」と。小さな小学生にとって、それはそれは魅力的な場所だったろう。そんなことを突然思い出した。



すすき野の地下鉄駅の上にある百貨店「ロビンソン札幌」の食品売り場を徘徊する。北海道開拓民の苦闘を描いた開高健の小説の題名が『ロビンソンの末裔』だったことを思い出した。生きた毛ガニが大挙デパートに住んでいるのはさすがに札幌だ。



それどころか、ばかでかいタラバガニもいた。



ラム肉というのも本州では特定の場所にしか売っていない。



ほっけ、ニシン。刺身のコーナーではホタテ貝が目立つ。これらも北海道ならでは。



ここから地下鉄に乗って待ち合わせ時間の11時に三上さんが待つ真駒内の駅に向かう。都市によって、電車に乗ったときにお客さんの感じが少しずつ違う。これは知らない土地に来たときに、いつも面白いと思うことのひとつ。


アイヌの聖地、湖を望む温泉、野ブドウ


北海道旅行の様子を写真でご紹介します。まずは一日目。新千歳空港に降り立ち、札幌に到着するまで。
6時半発の便なもので、家を出たのが5時過ぎ。眠い目をこすりながら一路北海道へ。行きはポケモンジェットに乗ったぞ。



新千歳空港で三上さんにお迎えいただく。三上さんの愛車、スバル・レガシーに乗っての2泊の旅が始まった。



広い道、広い空間の中を南東の方向へ。雲が多く、残念ながら天気はよいとは言い難いが、雲の多い日もそれなりに趣がある。前回も書いたが、アメリカの東海岸、ニューヨークの郊外やニュージャージーのどこかに迷い込んだような風景があちこちに現れて、どこかにしまい込まれている記憶をちくちくと刺激する。そんな道を走ってアイヌの聖地「二風谷(にぶたに)」を目指す。



二風谷を流れる沙流川(さるがわ)の下流に到着。サラブレッドの産地である日高の入り口だ。すでにあちこちにお馬ちゃんや牛さんの姿を散見できる。




沙流川の河口はすぐそば。ということで、ちょっと立ち寄っていこうということになったが、そのたたずまいの素晴らしさに離れがたく、かなりの時間を使ってしまった。



もう海が見えるという場所をバックに写真を撮る三上さん。クビに下げたキャノン・パワーショットをさっと構えてあっという間に撮る。風太郎くんの散歩で鍛えた速写のわざはさすが。



海まで下ってきた。水は茶色く濁り、光の加減でモノトーンに光る。岸に打ち寄せる波は勢いがある。



我々同様お散歩する人の影がちらほらと。このわんちゃんは飼い主の制止を聞かずに歩いている私に向かってわんわんと吠えかかり、近寄ってくる。ところがこちらが足を止めると「ぼく、知らない。別に、何にも、関係ない」という顔をしてそっぽを向く。また、私が歩き始めると吠えながら寄ってくる。なかなか面白い。



画になる光景がばらまかれており、写真を撮っていると時間を経つのはあっという間。似たような画ばかりですが、しばらく「写真帳」にこの時の写真を掲載させていただきます。ここに連れてきてもらっただけで来た甲斐があったと率直に思った。実際、この時の写真がこの旅の中で一番自分のイメージ通りに撮れていた。
写真を撮影中の三上さんと愛車。



馬が遊んでいた。残念ながら今回持ってきたカメラは標準ズームしか付いていない。せめて200ミリまであったら、とこういうときに歯ぎしり状態になる。がんばってお小遣い貯めなきゃ



河口をからとって返し、町に戻る。これから沙流川を遡り、二風谷ダムに向かう。その交差点にレトロな旅館が鎮座していた。人気が無い。廃業してしまったのかもしれない。



こんなところをテロリストが狙うだろうかという思いが一瞬よぎったが、いやいや、そんな甘い認識では日本の平和は守れない。



沙流川に沿って遡ること十数キロ、二風谷ダムに着いた。有明干拓事業などと同じくおなじみの行政の硬直性を示す典型例で、70年代に計画された公共事業が、必要性の是非に関する議論を押しやってアイヌの聖地を水没させてしまった。裁判は1997年の北海道地裁で土地取得を違法とする原告アイヌ側の主張が認められている。しかし、ダム建設差し止めまではならず、こんな景色が出来上がった。



■二風谷ダム(Wikipedia)


水面下のアイヌ集落を幻視する三上さん。



しかし、ダムのデザイン自体は最近の建設物だけあって、かなり洒落ていると思う。つまり、お洒落なものが常に人に望まれているものとは限らないわけで、こういう皮肉はかなり苦い味がする。





ダムを去ろうというタイミングで本格的な雨になった。アイヌ初の国会議員も努めたアイヌ文化継承運動のリーダーで、昨年亡くなった萱野茂の私設博物館がそばにある。展示に見入る三上さん。




沙流川河口の門別の町までとって返し、お昼ご飯。地元のおじさんに教えてもらった蕎麦屋は、路地の一角に看板もなく営業しており、狭いエリアを車でぐるぐる。やっと見つけたお店の手打ちのごぼう天蕎麦は、なかなかおいしかった。



アイヌの聖地に別れを告げ、雨の中を支笏湖に。観光客も少なく、これはこれでいいムード。




ただ、写真を撮るのには辛い光の具合。撮影に関しては多くは望めないものの、せっかくなのでトライ。



支笏湖をぐるっとまわり、湖を湖面の高さから眺める露天風呂のある丸駒温泉にご案内いただく。温泉の中はカメラを持ち込めないので、残念ながら画像はないが、これは他で体験できない風情である。もう日が落ちる直前の時間帯に、温泉の外から支笏湖をはさんで屹立する風不死岳の威容を写真に収める。まだ雨は降り続いている。



温泉の後は日の暮れた山道を一路札幌へ。宿に辿り着く前に三上さんに札幌柔石の石切場跡に案内していただいた。ぶれた写真しか撮れなかったが、ライトアップした幻想的な様子を想像してみてください。



市内のホテルに到着したのはすでに7時をかなりまわった時間。そこで三上さんにいただいたおみやげを写真に収めた。野ブドウは三上さんが散歩の途上で採ってくださったもの。口に入れると野草ならではのすっぱさが口いっぱいに広がったが、そののちにほんのりと甘みがやってきた。
その下にあるのは、三上さんが私のためにわざわざ作ってくださったお手製のガイドブック。行程に関する地図と、Webから採った解説文を組み合わせきれいにファイルした素晴らしいもの。これは私の宝物だ。三上さんには何から何までお世話になってしまった。