本屋の夢を見た

本屋の夢を見た。
そこは昔ながらの町の小さな本屋ではなく、今風の大型店らしく、入り口近くの目立つ棚を僕は物色している。周囲には何人ものお客さんがいて活気があるのはいいのだが、多くの手が本に伸びては無造作に棚に返され何冊かは端がめくれて傷んでいる。

痛ましいことだなあと思って棚に沿って右側に一歩、二歩と進むと、長く続く棚の袖に「読んだ本はここに戻してください」と書かれた貼り紙があって、そこには立ち読みでくたくたに汚れた本ばかりが何列にも、しかしきれいに整頓されて挿されている。英語の辞書とドイツ語の辞書は何冊も積み上がられている。傷めつけられた本がこんなにもたくさんあると僕は驚く。
「そうか、こんなふうに立ち読みされても、返本が効くから書店は困らなんだ。一部の本はお客さんを呼べれどんな扱いになってもいいんだ。かわいそうな出版社!」

そう思ったところで目が覚めた。現実の世界では、娯楽雑誌は実にそれに近い扱いをされているとは思うが、売り物にならなくなるほどに人が群がって立ち読みがなされるなどという事態が、本をめぐって起こるなどということはありえない。本に対する渇望なんて、いまやどこにもないよ、と思う。同時に、本はどれほど大衆の人気を博しても、はたきをかけるおばさんがいてもいなくても、常に本ならではの敬意をもって接せられてきたというふうにも考える。

どうして本屋の夢なんて見たのだろう。