タウトの「アルプス建築」

ブルーノ・タウトは、戦前日本にやってきたドイツの建築家で、桂離宮を褒め称え、日本人の自尊心をくすぐった人物として記憶されている。ところが、この人の建築作品を知っている人は建築の専門家を除くとわずかだろう。私も知らなかった。そして、驚いた。とりわけ「アルプス建築」の尋常ではないところに。


「アルプス建築」(Alpine Architektur)はタウトが1919年に発表した壮大な建築プラン。アルプスの山頂、谷間にクリスタルの大伽藍を建設しようという大きな夢の塊で、表現主義の建築家としての彼の真骨頂を示したヴィジョンだ。もちろん、規模の点でも実利のなさという面でも実現は不可能であることを作った本人がよく分かりながら書いた夢の建築。タウトは若い頃、絵の道に進むか、それとも建築家になるかでかなり迷ったという。その彼が画才を発揮した作品でもある。


この「アルプス建築」の画像をWeb上で見ることができる。5部30のスケッチからなる作品だ。

http://e-pub.uni-weimar.de/volltexte/2004/82/html/BrunoTaut.html


その中の2枚を引用させてもらう。




このサイコーにお馬鹿なプランに関してタウト自身は次のように書いているという。

確かに非実用的であり、益はない! しかし我等は実用的なもので幸福になったろうか。終始実用一点張りだ。やれ快適、便利、やれ美食、やれナイフ、フォーク、鉄道、便所、それからまた火砲、爆弾、武器! 高尚な理念がなくて、単なる実用や便利を欲するのは退屈だ、退屈だ。
(鈴木久雄『ブルーノ・タウトへの旅』p160の引用より)


Web上でタウトの情報を見れば、タウトの日本解釈をありがたがって反芻しているのは結局当の日本人である。タウトの面白さは「アルプス建築」にある。こんなおじさんが日本に来て自分の持っているもの、自分のバックグランドになっている何かとは異なる日本文化の面白さに魅入られたのは分かるが、タウトのそこを掘り下げて面白いことがどこまであるのか。アルプス建築。これに尽きる。