2008-03-01から1ヶ月間の記事一覧

肉体は魂を裏切るけれど

ご承知の通り、先週、大江健三郎著『沖縄ノート』の集団自決に関する記述をめぐる訴訟のニュースが大きく報道された。その際に、久しぶりに大江健三郎がテレビカメラの前で話をするのを目にしたのだが、急に老人になってしまった大江さんに出会ってびっくり…

『冬の旅』− 極北の音楽

大江健三郎と小澤征爾の対談『同じ年に生まれて』で小澤が次のように語っている。 小澤:何で音楽でコメディーができたかというと、音楽の根底に、あなたは笑うと思うけど、人間が持っている情というものがありますね。 大江:はい。 小澤:その情というもの…

スウェーデンで体験したクラブのひととき

以前の仕事でスウェーデンに行ったのは西暦2000年。そのときに生まれて初めて「クラブ」なる場所を体験した。日本にもあるでしょ、そういう名称の施設が。銀座や六本木なんて場所にたくさん。近年は類としてさらに進化を遂げて“キャバクラ”なんてものも増殖…

ゲルネを食うブレンデルのピアノ

シューベルトの『冬の旅』は、ピアノ伴奏を伴った(通例は)男声による歌曲集だが、伴奏であるはずのピアノが独唱と同等の存在感を最初から最後まで湛え、聴く者の耳を捉えて離さないという意味で、やはり特殊な音楽ではないかと思う。これは僕の新しい発見…

高校野球見物

息子の野球見物に行った。春の地区大会、4校でのリーグ戦を戦った息子のチームは3戦全敗。それも3試合続けてのコールド負け。しかし、見ていて心が躍った。勝っても負けても、敵も味方も、十代の若い命がはじけるのを感じるのはこのうえなく楽しい。

自分は自分ということ

しばしばトラックバックをしてくださる『koichiro516の日記』の中村孝一郎さんについては、「光技術の専門家らしいな」ぐらいの認識しかなく、多くの若者のロールモデルになると梅田望夫さんが一押しするような、その分野で誰もが認める飛び抜けた人物だとい…

ネットとリアルの風通し

有り難いことに、昨日のエントリーにも一昨日に引き続き、再度Emmausさん(id:Emmuas)、勢川びきさん(id:segawabiki)からコメントを頂いた。お二人のコメントを拝見しながら、ブログを書くということについていくつかの考えをめぐらした。一つは心構えについ…

生きることとともにあるブログ

この前のエントリーに対して勢川さん(id:segawabiki)、Emmausさん(id:Emmaus)に有り難いコメントを頂戴した。また、いつもお読みいただいている皆さんからのたくさんの☆も。勢川さんがおっしゃる「「立場」や「仕事」をそぎ落としても残る自分の人生そのもの…

これは長い老後の始まりなのか

つい、数日前に、急にぽっかりと頭に浮かんだ想念である。このブログ書きは、四十代後半の俺にとってちょっと早すぎる老後のたしなみの始まりなのではないか。趣味の俳句、詩吟の会、ゲートボールの集まり。つまり、そういうものなのではないのか。ブログを…

呼吸すること

昨日のエントリーに「音楽的な文学作品」というタイトルを付けましたが、とても不十分、ひでえものだと自分の文章を見てがっくりしました。ここは、明らかにもういちだん敷衍して、あらゆる文学作品は固有の音楽性を備えていることに言及するべきだったと思…

新日フィルのサントリー定期にいった

定期会員の友人が行けなくなり、チケットを譲り受けて新日フィルのサントリーホール定期を聴いてきた。『キャンディード』序曲、プロコフィエフのバイオリン協奏曲第2番と交響曲第5番という元気のよいプログラム。久しぶりに新日フィルをサントリーホールで…

音楽的な文芸作品

Sonnenfleckさんの、そのタイトルも清々しい『庭は夏の日ざかり』は、クラシック系の録音、コンサートの視聴記を中心としたブログです。相当お聴きになっている様子がありありで、マタイの録音評で「コンセルトヘボウのマタイといったら、クラヲタなら誰しも…

私はいくつ?

昨晩、simpleAの金城さん(id:simpleA)が主宰するおしゃべりの会に出席したら、いいことがあったぞ。名刺を渡した初対面の若者が「若いのに管理職なんてすごいですね」とおっしゃるのである。「えっ、僕、いくつに見えます?」と問い返したら「二十代後半でし…

sergejoさんと踊る指揮者

昨晩お会いしたsergejoさんは口は悪いし、人をすぐ茶化すし、年上を敬う精神がかけらもない不届きな奴なのだが(今日のコメント欄をご参照ください)、simpleAの金城さんと学生時代以来の友達という人だから、それも仕方がねえなあと諦めるほかはない。しか…

心の危機は容易ではない

今日、心の赴くままに書くと昨日通勤途上で聴いたテンシュテットのブルックナー交響曲第4番の素晴らしさしかないのだが、一昨日同じ曲の感想をラトルで書いたばかりなので、ここで紹介するのはまたの機会に譲ることにする。その種の、どうしてもクラシック音…

8月のカプリース

かつて批判的にブログで紹介した大江健三郎の長男、大江光さんの『大江光ふたたび』を聴いている。光さんは、『個人的な体験』以降の大江文学と大江健三郎の生き方にとって中心的な役割を担ってきた人物で、脳に障害を持って生まれ、5歳のときまで人語をまっ…

ラトルのブルックナー交響曲第4番

この一週間、サイモン・ラトルとベルリン・フィルによるブルックナー交響曲第4番を毎日のように聴いている。ラトルのブルックナーに一票を入れることになるとは思わなかったが、この演奏には今の自分に響くものが確実にあった。ラトルをあまり好んで聴くこと…

年齢のこと

高校一年生の末の息子が「50歳なんて、もう半分死んでるとしか思えねー」などとお馬鹿丸出しで嬉しそうに言うのを聞いていて、高校生から見ればたしかにそうだろうなとは思う。ときどきテレビニュースを見ていて、「どこどこのなんとかさん45歳が食中毒で入…

ここ以外の場所なら

今朝、くまさんの茅ヶ崎行のエントリーを読んだとたん、開高健記念館に行きたくなった。幸い今日は日曜日。こういうのは思い立ったが潮時である。横浜の我が家から自転車をこいで1時間と少々、茅ヶ崎の海岸線にほど近い閑静な住宅街の只中に佇む開高健の終の…

偏執狂

『simpleA』の「テクノロジーとあんまし関係ないとこで「技術者の眼」を持つ人たち」というエントリーは、梅田望夫著『ウェブ時代 5つの定理』の正しい読み方に関するひとつの典型的なあり方を示して実に教育的だ。「テクノロジーとあんまし関係ない」と見…

足るを知る

江藤淳のエッセイを読んでいたのは血気盛んな高校生の頃だからずいぶん昔の話だが、その頃に出会った一文に『足るを知る』というのがあった。ごく短いエッセイだ。「足るを知る」というのは『老子』に出てくる言葉だそうで、「足るを知る者は富めり」という…

ディベートをめぐる勢川びきさんの漫画、大江健三郎、浅田彰

勢川びきさんが、「ディベートのできない日本人」をテーマにしている。面白い。我ながら思い当たるところが大ありだから。すぐに“感情的になって”相手をやっつけようとしたり、必死の防戦に回ったり。その時間が過ぎ去ったときの気持ちの行き場に困ることは…

実名ブログ

やっと写真を処理できるパワーがあるパソコンが修理から戻ってきて写真ブログも再開できた。と思ったら、昨日、帰宅したばかりの僕の目の前で長男が東芝リブレットをテーブルから落っことし、めでたく故障。ったく、トホホである。またお金が飛ぶ。不便な時…

ブログ力

新しい職場に来て悪戦苦闘中。まったく思い通りに事が運ばない。心が悪い方、悪い方へと傾きかけそうになる中で、読書と毎日読むブログが自分を支えてくれている。何れも、その向こうに自分が信頼できる人の姿を見ようとしているように思う。「自分が信頼で…

パラノイアだけが

一昨日書いた『ウェブ時代 5つの定理』の感想に対して著者の梅田さんからコメントを頂いた。その中に「2,000時間を越える時間を費やし、25,000件に及ぶ読者の感想を読んだ上で下した決断」という言葉が書かれていた。梅田さんが『シリコンバレー精神』で紹…

くたくた

何気ない風を装って、読書の感想などを書き連ねてはいるが、その実、日常生活では心身共にくたくた。こんなんじゃもたないぞ、と少し弱音を吐いてみる。修理に出したパソコンもまだ戻ってこない。

僕らは何をすべきなのか

もうしばらく前のこと、『ウェブ時代をゆく』が出る前だったから、昨年の秋口だったかな。友人と酒を飲んでいるときに教師である友人の重たい問題提起に対して、こんな台詞が口をついた。「できる子は梅田さんにまかせておけばいいとして、そうじゃない子を…

何の変哲もない土曜日

仕事の疲れを癒すのは運動に限る。運動と呼ぶにははばかられる程度のことだけれど、久しぶりにカメラを持って舞岡公園を散歩した。雪の日に訪れて以来だが、数少ないものの梅が赤い花を咲かせ、鳥を追うアマチュア・カメラマンの数も増えて、都会のオアシス…

『ウェブ時代 5つの定理』をさらに少し読み進める

吉本隆明の文体を操るブログ界の才人、finalventさんが、『ウェブ時代 5つの定理』について面白い感想を書いています。この本の裏に存在する黒いもう一冊の本が頭をよぎるというのです。http://d.hatena.ne.jp/finalvent/20080302/1204419213 昨日、まだほ…

梅田望夫著『ウェブ時代 5つの定理』を読み始めた

最近、大江健三郎ばかり読んでいる関係で、他の本がおろそかになってしまっているのですが、やっと話題の『ウェブ時代 5つの定理』を読み始めました。いい本ですね。他者の言葉に託して、梅田さんは、この本でご自身をもっともストレートに表現できたと感じ…