嘘くさい物語

本屋で文芸書のコーナーに立った時に、面白い物語を読みたいと思った。えいやとある日本人作家の長編を購入し2日で読了したが、これでいいはずないだろうと言いたくなるような代物だった。有名な賞をとった人が名の知れた出版社から出している本とは到底思えない出来である。

これなら、外国の小説の棚にあったジュンパ・ラヒリでも買っておけばよかったと今頃になって思った。ピューリッツァー賞をとった地味な短編集を一度読んだことがあるだけの作家だが、そこには真実の心の動きがあった。シリアスな心理劇も、小道具が荒唐無稽なSFも、ありえない冒険活劇でもそうだが、よいドラマは筋立て如何に関係なく、登場人物の心の動きにリアリティが備わってなければならない。ここで言いたいのは、心の条件反射のような単純な話で、人間の反応にはどの時代の、どの文化に属していても、共通に理解し得る最大公約数が備わっている。尻尾の生えた悪魔を見れば卒倒しなければ嘘だし、雪に覆われた山奥に日本語を話さない見ず知らずの外国人が訪ねてくれば、やはり卒倒するか、根掘り葉掘りと相手の素性を聞き出さなければ嘘くさいし、劇は劇として深化しないだろう。