山口果林著『安部公房とわたし』

丸善本店の文芸書コーナーで目立つ場所に平積みになっており、軽めの読みやすい本を手に取りたい気持ちと複数の新聞書評が出ていた事実と、当然オモチロイことが書かれているに違いないという覗き見趣味的好奇心に背中を押され、タイトルを見て手にとったときには購入を決めていた。

一読後、ネット上での評判やいかにと思ってグーグルで検索をし、いくつかの読者のブログやアマゾンの読者書評などを読んでみたら、読んでいるうちに自然と心のどこかがシャッキっとするのが分かった。何の話かというと、安部公房をしっかりと読んでいる人、安倍と山口果林の関係について噂があったことを覚えている人が何人も筆を執っている。50代半ばにさしかかる僕よりも上の年齢の人たちに違いなく、おそらく山口果林と同じ団塊の世代に属する人たちが口を開き、語りたがっているのだ。

驚いたのはそのこと自体についてで、自分より上の方々の文章をウェブの上でまとめて読む機会はほとんどないと思っていたのに、おや、こんなにいたんだぁという驚きである。なかなか姿が見えにくい中高年の先輩たちが、彼らの興味を喚起する書籍によって姿を現すのを目にする驚き。昭和とウェブって、漠然とだがつながっていないような気がしていた。どうも、必ずしもそうではないらしい。すでに一昔前の売れっ子作家と有名女優の関係を、メディア産業としては成熟を迎えてあがいている出版産業が担ぎ、その先でかつての安部ファンの声がウェブから聞こえてくる。

それぐらいの普及はすでにネットは達成していたんですかね。というのが驚きなのか、結局引き金になるのは昔話なんですかね、という驚きなのか、それとも、やっぱり年配者には本なんですかね、という驚きなのか。ぼんやりとしていてよく分からないのだが、その辺りのどこかで何かの事態は進展していると直感は告げるのだ。ビジネスとして新しいことが起こりそうだとも。

今日は肝心の本の内容について何もなくてすみません。