ブラームス交響曲第1番のティンパニ補遺

今日のエントリーはこのところこだわって聴いているブラームスの第1交響曲のコーダにおけるティンパニ・パートに関する覚書で、この文章の示唆するところはそれ自体が文字通りに示すこと以外に何もないので、そのことをまずお断りしておく。

id:tsuyokさんが教えてくれたミュンシュとボストン響の1961年のライブ録音を聴くと、1990年の小澤征爾指揮サイトウ・キネン・オーケストラのロンドン公演と寸分違わない楽譜が用いられているのが分かる。

http://www.youtube.com/watch?v=O4G76jDkYWg

http://www.youtube.com/watch?v=tKvQQajKg5Q


これはうろ覚えなので、もしかしたら間違っている恐れはあるが、小澤さんが70年代にボストン響と入れた録音も同じティンパニの改変がなされていたはず。とすれば、つまるところ61年から90年までその他では用いられていない楽譜が異なる二人の指揮者、しかも異なる二つのオーケストラの演奏でなされている。

教えてくれたtsuyokさんは、こう書いていた。

おそらく、昔のサイトウキネンはボストン主席のヴィックファース、昨年はベルリン・フィル主席のライナーゼーガースなので、オケの伝統か奏者の好みなのかもしれません。

これはtsuyokさんの言うとおりで、指揮者とオーケスラはそれぞれ異なるが、ティンパニ奏者は同じボストン響に属しているところから、サイトウ・キネンの演奏はボストンの伝統、ミュンシュと小澤という師弟関係にある指揮者の二つの筋から持ち込まれた可能性がある。とすれば、CDの正規録音も同じ演奏に終始してよさそうなものだが、そうなっていない。これは何故だろうと相変わらず謎である。誰がご存じの方がいたらどうかご教示ください。

なお、気になってミュンシュとパリ管の録音も仕入れて聴いてみた。昔から日本の批評家が「サイコー!」と持ち上げる演奏だが、私は20年ぐらい前に一度だけ聴いて、思い描いていた内容とは違って拍子抜けした覚えがある。ただ、実際にはどんな演奏だったかまるで記憶から抜けていた。

久しぶりに聴くと、やはり個人的には違和感のある演奏だったが、それはさておき、件のフィナーレのティンパニは、YouTubeに上がっていたボストンとの演奏とはまた違っている。この録音はミュンシュ最晩年の1968年の演奏で、やはり4楽章では楽譜にないティンパニのロールが入るのだが、その箇所はコーダに入る前の、ちゃんと説明するのが面倒くさいのではしょると第4楽章の362小節と363小節。楽譜をお持ちの方は確認をして頂くとよいが、一般的なセンスでは思いもよらないような場所である。

ただ、1961年の(ということは小澤の)演奏と同じところも一箇所あり、コーダの例のコラールの後でクレッシェンドとともに打ち鳴らされるところは付け加えられていた。ただ、最後の「ドッシド、ドッシド」に重なる「タンタカ、タンタカ」という付与は行われていない。 

いくつもの版があるブルックナーの録音を聴いていつも思うことだが、楽譜の異同は演奏のありようや善し悪しを決める決定的な要素にはならない。優れた楽譜で惰演があれば、つまらない楽譜でよい演奏がある。このブラ1のミュンシュと小澤の演奏を聞き比べても、言うまでもないか、同じ楽譜といえ二人の演奏はまるで異なる肌合いのものに仕上がっている。

ブラームス:交響曲第1番

ブラームス:交響曲第1番