小野さんの印象

小野さんは東京で社会人生活に入った後、岡崎に移って営業の仕事でご自身の礎をつくり、大分に戻って今の仕事を始められた。苦労の末に大手スーパーの中に店舗を開き、保険の代理店の経営者として着実な一歩を歩み始めている。

2年間やってこられて、やっと月に2度といった頻度で休みが取れるようになったと小野さんは語ってくれた。そこに至るまで文字通り休みなく働いて、その結果、相談に寄ってくれるお客さんが常にいらっしゃるところまで来た。小野さんは柔らかい口調で語ってくれた。

ブログは人柄を表す。小野さんはやはりブログを通じてこんな人かなと想像していたとおりの人で、他人に対する細やかな心遣いと、自身を客観視できる視線と、温かな性根とが自然と感じられて、つまり一緒にいるとそれだけでこちらが励まされるような雰囲気を発散している人だった。カメラを向けると、きちっとダブルピースで、つまりみんなの期待にしっかりと応えようとする。とても優しいのだ。短い期間で、競争に囲まれ、簡単ではない商売を軌道に乗せつつあるその理由がかいま見えた気がした。

小野さんが関係している保険は、小野さんのお父上が携わっていらした分野でもあり、そのことについて小野さんは親に対して反抗的だった若い頃のことを振り返りながら、ある種の感慨をお持ちであることを、気持ちよく吹き渡る秋風のような口調で語ってくれた。

そして大分で根を張り、生きることのご自身にとっての意味合い、覚悟が、同じ秋風の口調に乗ってそれとなく話題になった。小野さんの本当の地元といえる土地は、大分市の隣の佐伯市である。だから、彼にとって現在を生きることは、東京、中京、大分、佐伯といったご自身が生きてきた土地の関係性を、好むと好まざるとにかかわらず内に抱えてすごすことを余儀なくされることなのである。大分という土地で小野さんに会ってみて、三上さんの土地をめぐる一文に鋭敏に反応した小野さんの次のエントリーを読み返すと、明るく朗らかな小野さんを支えている暗いマグマの存在にぞくっとする。

■今ここにいる自分(『勇気と想像力、そして少々のお金』2008年8月28日)


開高健がそのエッセイの中で紹介していた海外の掌編小説がある。離れた故郷に久しぶりに戻ってきた若者が、ある朝、ある家の前を通り過ぎると、ホースで水まきをしている男(あるいは老人だったか)がいる。彼は若者にホースから水を飲むよう勧めてくれ、その厚意を受ける。男は若者に言う。「なんといっても故郷の水がいちばんだよ」

それだけの小説だが、めざましい印象が残ったという類の感想を開高は書いていたと思う。小説に対する開高の語り口も、その正確な記述もおぼろげなままだが、紹介したくなったのは、小野さんに会って、ものすごく久しぶりにこの逸話を思い出したからだ。ホースから水を飲む小野さんの姿が見えたような気がしたからだ。