高崎山に別れを告げる前にもう少しだけ『サル学の現在』に出てくる伊沢紘生先生の言葉を書き記しておこうと思う。昨日の部分に続いて伊沢さんはこう言う。
サルは本来そんなに競争にはげんで、あくせく生きていこうとしているのではないんですね。できるだけのんびり楽しく生きていければ、それでいいというのが彼らの生活の基本原理ですよ。
そして、競争的社会と対極をなすサル社会のありようを「頼る頼られる関係」というコンセプトで説明をしている。
適当な表現を探してずいぶんいろいろ考えたんですが、そうとしかいいようがないんですね。要するに、競争という概念のちょうど反対側にある概念です。共存でもない、調和でもない、ベタッとした相互依存でもない。要するに頼る頼られる関係なんです。それは、親子の場合もあるし、オス、メスの場合もある。力量の差にもとづいた強い弱いという関係もあるし、経験豊かな老メスと若メスという関係もある。いろんな頼る頼られる関係が群れの中に張りめぐらされているんですね。そして、頼る側は頼る相手についていこうとする。すると、頼られた側にも頼った相手に頼るという行動が生じ、またその頼られるという行動によって、頼った相手への気配りも見せるようになる。そういう関係の集合体として、群れは構成されているということです。
そうした関係をニホンザルの社会がもち、それが競争社会を形成する原理と対極にあるものだったとして、さて、この関係は我々にとってどこかおなじみのものではないだろうか。ブログをめぐる関係にどこか似ているところはないだろうか。20年前にこの話を読んだときに、こんなことを考えるようになるとは思いもよらなかったし、高崎山に行くことで、そんなことに思いが至るとは夢にも思わなかった。
というわけで、高崎山で目にする「頼る頼られる関係」はとても気持ちよく、スタッフの説明はとても教育的で、小野さんの洗練された心遣いはとてもサル社会的だった。
- 作者: 立花隆
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