嗜好は十人十色だから

人にものを薦めるほど難しいことはない。好きという感情、いいと思う心の動きは、対象とわたくしの関係性、距離感に他ならず、この距離感は「わたくし」のありようそのものである。客観的、科学的な善し悪しなどどこにも存在していない。「丸山健二はいい」と思うのはわたくしなのだ。ほんとうは「わたくしが丸山健二をよいと考える」という以上でも以下でもない。だからこそ、人どうしが共感を共有するのはある種の奇跡である。その瞬間を言祝ぎたいという気持ちを常に新鮮に持っていたい。