真面目に生きないと丸山健二に嘲笑されるぞ

くまさんが、丸山健二の『田舎暮らしに殺されない法』の書評をご紹介なされており、つられて読んだ。どうやら、都会人の甘い感傷、脳天気な憧れを一括する典型的丸山エッセイらしい。このエントリーに紹介されている丸山の一文をちらとでもご覧下さい。その引用に続いて同サイト『CLASSICA』の管理人氏が書いている「この調子で延々と続く(笑)」というひと言がおかしい。おかしいと言っても、やれやれと頭をかきながら、「また丸山先生に叱られちゃったよ。せんせの気力充実度は相変わらずだねえ」と苦笑する類のおかしさだから、“きもかわいい”という最近の日本語にひそみにならうとすれば“いたおかしい”というべきであろう。

http://www.classicajapan.com/wn/2008/09/040102.html


現代日本の醸し出す“甘さ”を徹底的に嫌い、口先だけの世渡り上手が跋扈する世間を笑い、「おかまの腐ったような連中」といった類の苛烈なけなし言葉でそんな世の中と対決する丸山さんの周りには、熱烈な少数のファンと、「くそ、丸山許してなるものか」と目をつり上げる何倍ものアンチファンが群れをなしているはずだ。

でも、20代の馬場さんが「昔はそんなに売れていた作家だとは知らなかった」といい、おそらく40代だと思うくまさんが存在を「知らなかった」というぐらいで、90年代以降の丸山健二はどんどんマイナーになっていく様子である。好きと嫌いを含めて、丸山を見ている人が限られるということ自体、いまの日本の精神構造がなにがしかの形で表れていると考えてよいのではないかと思う。

それにしても、「私はプロです」という顔をしながら、大して仕事ができない連中っているもんだ。そういう丸山に馬鹿にされる連中が大きな顔をしている社会・環境・組織は、結果的には競争に負けて廃れていく。私は競争して一番になることが人生の豊かさをもたらすとは思わないが、チャレンジすることは常に善だし、競争のもついくつもの倫理的側面には頷きたくなる部分が多いよなとは思う。

丸山健二を初めてお読みになってみようという方には、やはり『ときめきに死す』を推薦します。彼の作品でもっとも売れた作品でしょう。枚数も限られているので、とっつきやすい。長い時間、小説世界に浸りたい方は、今度の新刊『日と月と刀』を、さらにやる気のある方は文藝春秋創立70周年記念作品の『千日の瑠璃』を推薦します。小説なんてまどろっこしくて時間の無駄だという向きにはエッセイ集『されど狐にあらず』あたりを。彼のエッセイは、小説とは違い、どれも平易な言い回しで綴られており、とても読みやすいです。

ときめきに死す (文春文庫)

ときめきに死す (文春文庫)

千日の瑠璃〈上〉 (文春文庫)

千日の瑠璃〈上〉 (文春文庫)