音楽

習い事の価値

私が敬愛する小説家の開高健は、おそらく運動不足や不養生に端を発するものであったろう体の不調に対処するために、50歳を過ぎてから週に2日の水泳を始めた。晩年の彼は、数々のエッセイで、様々な変奏を行うようにその「五十の手習い」に触れている。開高の…

生れてはじめての習い事

もう5か月もブログを書いていないということに気がついた。しばらくご無沙汰していたけれど、そんなに長くほったらかしにしていたとは思わなかった。 この間、何をしていたのかというと、自由になる時間を使ってフルートを吹いていた。ほぼ40年ぶりのことだ…

ジョン・アダムスの『アブソリュート・ジェスト』は面白い

1月27日(土)と28日(日)の2日、NHK交響楽団が、アメリカの作曲家であるジョン・アダムスの『アブソリュート・ジェスト』を演奏する。2015年3月にウィーンを旅行した時に、ちょうど作曲者のジョン・アダムス本人がウィーン交響楽団に客演をしていて、この…

宮田大チェロリサイタル

昨日はミューザ川崎で宮田大さんのチェロを聴いた。 チェロのリサイタルを聴くのは生れてはじめてのこと。弦楽器のリサイタル自体、これまで一度も行ったことがない。自分自身に対して「どうした風の吹き回し⁈」と言いたくなる選択なのだが、ちゃんと理由は…

夢、ノット指揮東京交響楽団の『ドン・ジョヴァンニ』

兄弟に刺されて人が死んだニュースを何度もテレビで見たのがいけなかったのだろうが、その夜にナイフを持った暴漢に正面から迫られる夢を見て大声をあげ、家族を夜中に起こしてしまった。その翌日、というのは一昨日のことだが、今度は、我が家の居間ぐらい…

ノット指揮東京交響楽団の『英雄』

2週間ほど前に前の音楽監督であるユベール・スダーンのコンサートを聴き、その好印象の余韻の中で聴いたコンサートだったが、いやはや、この日のノットと東響による『英雄』は期待をはるかに超える演奏で、大いなる満足を抱えて帰宅した。この日はドイツの有…

ウィーン弦楽四重奏団リサイタル

今日はミューザ川崎にウィーン弦楽四重奏団を聴きに行ってきた。かつてのウィーン・フィルのコンサートマスター、ヴェルナー・ヒンクが1960年代に立ち上げた名アンサンブル。この手の名の知れたカルテットの例に漏れず、長く演奏する間にメンバーは変わって…

ノット指揮東京交響楽団のハイドン、モーツァルト

前日まで熱が出たり、胃痛が続いたりして、これはコンサートに行くのは無理かなと思っていたら、朝起きると予想に反して気分はすっきりとしており、初台のオペラシティまで出かけてきた。ノット指揮東京交響楽団のこの日の出し物は、ハイドンの交響曲第86番…

ジェイムズ・R・ゲインズ著『「音楽の捧げもの」が生まれた晩――バッハとフリードリッヒ大王』

バッハの対位法に基づく音楽は実に難解であり、そのロジックを勉強したことがない私のような素人が味わえる部位は限られている。とくにそれを思うのは、その種の音楽として傑作と言われる『フーガの技法』を聴くときで、人好きのするメロディがあるわけでも…

ノット+東京交響楽団の細川俊夫『嘆き』、マーラー交響曲第2番『復活』

2ヶ月の入院など思いもよらなかった頃に購入していた音楽会のチケットのうち、5月に楽しみにしていたブルックナー5番の2つのコンサートは問答無用でキャンセルとなってしまった。人づてに聞くと、ともにいい夜だったようなので口惜しい思いをしたが、7月1…

ベルリンでのN響演奏会評も拾ってみた

N響の欧州ツアーについて、ロンドンでの好評を紹介したので、遡ってツアーを開始したベルリンではどうだったのかも検索してみた。見つけたのはデア・ターゲスシュピーゲル紙の短い評。文章の長さは短いけれど、実にしっかりと聴き、きっちりと表現した一文に…

もう一つロンドンでのN響評からご紹介

昨日に続いてNHK交響楽団の欧州公演評を追ってみた。今日紹介するのは、昨日のエントリーで取り上げたのと同じロンドン公演を、イギリスのクオリティ紙であるザ・ガーディアンが紹介したもの。 ■NHK Symphony Orchestra/Järvi review – an ensemble on brist…

N響の達成

久しぶりのエントリーです。2月の下旬にN響が欧州主要都市をまわって演奏会を催してきた。昨年末にこのブログに書いたように、今のN響ならばそれなりの評価を得るとは思ってはいたが、今日、録画していたベルリンでのコンサートの様子をやっと視聴し、これは…

ノット+東響の『コジ・ファン・トゥッテ』

オペラはほとんど観ない。『フィガロの結婚』も『ドン・ジョヴァンニ』もまだ生を観たことがない。『コジ・ファン・トゥッテ』を聴いたのは、これが生れてはじめて。とても、とても楽しかった!(2016年12月9日、ミューザ川崎)モーツァルトのオペラで観たこ…

ノットと東京交響楽団のシューマン交響曲第2番

「トリが地味な曲だから、このコンサートはやめとこ」と思っていた東響の定期(トリスタンの第一幕への前奏とデュティーユのチェロ協奏曲、シューマンの交響曲第2番の3曲)に行ってきた。一週間前にもらった東響からの営業メールを読んだら、なんだか急にト…

Twitterがオーケストラを導く

この前のエントリーのコメント欄で、id:mmpoloさんがTwitterの影響力について話をしてくれた。その話に触発されて少し書いてみたい。TwitterとFacebookは、ときどき読みますぐらいの利用しかしていないのだが、ここ半年ぐらい、自分が足を運んだコンサートの…

日本のオーケストラは日本の音がする

10月に欧州公演に臨んだ東京交響楽団の、ドルトムントでの新聞評を見つけて紹介したら、常日頃の何倍ものアクセスがあった。何倍なんてものではない。このブログはたくさんに人に読んでもらいたいだとか、お客さんを増やしたいだとかいう動機をすでに忘れて…

シモーネ・ヤング+東京交響楽団のドヴォルザークとブラームス

欧州ツアーから戻ってきた東京交響楽団のコンサートに行ってきた。シモーネ・ヤングの指揮でドヴォルザークのチェロ協奏曲とブラームスの交響曲第4番のプログラムである(2016年11月3日、ミューザ川崎)。シモーネ・ヤングさんは、女性指揮者としては今いち…

ドルトムントでの東京交響楽団のコンサートに対する現地の新聞評

東京交響楽団がジョナサン・ノットに率いられて欧州5都市の演奏旅行を敢行した。そのフィナーレを飾るべくドイツのドルトムントで行われた演奏会(2016年10月27日)の評が、現地の新聞『ルール・ニュース(Ruhr Nachrichten)』のウェブ版に掲載されている。ht…

ノット+東響のベートーヴェン「ヴァイオリン協奏曲ニ短調」、ショスタコーヴィチ「交響曲第10番」

東京交響楽団が創立70周年記念として行う欧州ツアーのもう一つの演目を聴いてきた(10月15日、サントリーホール)。前半がイザベル・ファウストの独奏でベートーヴェンのバイオリン協奏曲ニ長調、後半がショスタコーヴィッチの交響曲第10番。このプログラム…

ノット指揮東京交響楽団のブラームス交響曲第1番

昨日、ジョナサン・ノットと東京交響楽団が欧州ツアーにこれから持っていく二つのプログラムの一つを聴いた(10月9日、タケミツホール)。曲目は、武満徹の出世作で東響が委嘱をした「レクイエム」と、ドビュッシーの「海」、それにブラームスの「交響曲第1…

ユベール・スダーン指揮東京交響楽団のベルリオーズ『ファウストの劫罰』

今日は東京交響楽団の創立70周年記念演奏会と銘打たれた『ファウストの劫罰』をミューザ川崎で聴いてきた。指揮は3年前まで音楽監督をだったユベール・スダーン。『ファウストの劫罰』はオケに独唱、合唱が加わる大曲で、なかなか生で聴く機会がない。曲の最…

サーリアホの「トランス」、「オリオン」

火曜日にサントリーホールでカイヤ・サーリアホのオーケストラ作品を聴いてきた。サントリー音楽財団が毎年この時期に開催している現代音楽の催し「サマーフェスティバル」の一環として開催され、オーケストラは東京交響楽団だった。最近、短期的な記憶がま…

広上淳一とNHK交響楽団の「ヒーロー&ヒロイン大集合」を聴いた

もう一月ほど前のことになってしまうが、ミューザ川崎が数年前開催している夏の音楽祭「ミューザサマーフェスタ2016」で、広上淳一指揮するNHK交響楽団がテレビ、映画のヒーローもののテーマ音楽を集めて演奏するというコンサートを聴いてきた(2016年7月30…

ジョナサン・ノット指揮東京交響楽団のブルックナー交響曲第8番

ジョナサン・ノット指揮の東京交響楽団でブルックナーの交響曲第8番を聴いた(7月16日、サントリーホール)。 ジョナサン・ノットは、彼が16年間の長きにわたって務めてきたバンベルク交響楽団の音楽監督としての仕事を、2週間前にこの曲を振って終えてきた…

フランソワ・リリーのリヒャルト・シュトラウス

フランソワ・リリーという、いかにもフランス人らしい名前のオーボエ奏者を生まれて初めて聴いて、あまりの素晴らしさに度肝を抜かれた。 6月17日のNHKホールで行われたN響の定期演奏会でのことで、ここでリリーはリヒャルト・シュトラウスのオーボエ協奏曲…

『一柳慧の音楽』

タケミツホールで毎年開催されている現代音楽のシリーズ「コンポージアム」が今年取り上げたのは一柳慧。5月25日のオーケストラコンサート『一柳慧の音楽』に行ってきた。 この日、秋山和慶指揮東京都交響楽団が演奏したのは「ビトゥーン・スペース・アンド…

『ナクソス・ミュージック・ライブラリー』の不条理

『ナクソス・ミュージック・ライブラリー』は、大手から弱小レーベルまでさまざまクラシックレーベルを巻き込んで、インターネットにおけるクラシック音楽の録音媒体販売のプラットフォームになりそうな勢いだが、これはつまり、レコード・CD産業は死んだと…

『ナクソス・ミュージック・ライブラリー』のどこがすごいか

クラシック音楽のストリーミングサービス、『ナクソス・ミュージック・ライブラリー』がいいと書いたが、もちろん「pro」の部分ばかりでなく「con」もある。 機能的に不足しているのは『ギャップレス再生」に対応していない点で、トラックごとに間合いが入っ…

『ナクソス・ミュージック・ライブラリー』を利用し始めた

『ナクソス・ミュージック・ライブラリー』というサービスがあることは以前から知ってはいたが、数年前に少し覗いてみた時にはそれほど魅力のある商品だとは思わなかった。ところが、年明けにクラシックに詳しい知人に最近の状況を教えてもらい、久々にその…